日本真珠の豊かな美
自然に秘められた美と海の神秘を紡ぎ出す真珠。中でも日本の真珠は世界トップクラスの品質を誇る。古代から讃えられ、今もなお世界から喝采を浴び続ける日本真珠の本質。四季折々の、匠による真摯な手仕事や目利きの情熱から編み出されている。そして真珠の生産量が激減する中で模索する海との共存共栄の行く末は。その絶え間ない探究と美の物語を紐解く。
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真珠の歴史と由来
人の手を加えることなく、自然に完成された真珠。天国には真珠でできた12の門があると聖書に記されていることから、「Pearly
Gates」ということばがあり、昔から美しさの象徴として高く評価されてきた。
真珠はダイヤモンドやルビーと異なり、研磨やカットを必要としないことから、古代から最も親しみやすい宝石として身近に使用されてきた。事実、世界各地の遺跡から真珠を使った装身具が発掘されており、アラビア半島近くのペルシャ湾では、紀元前4000年ごろ(今から約6000年前)にすでに、人類が”海の珠”と関わりがあったという記録が残されている。
日本では、福井県三方郡三方町の鳥浜貝塚から約5500年前の「縄文真珠」が発見されている。1300年前に編集された日本最古の書物「古事記」には「欺良多麻(シラタマ)」の記述がある。「赤玉は 緒さへ光れど 欺良多麻(白玉)の 君が装し 貴くありけり」(赤玉はそれを通した緒まで光りますが、白玉のようなあなたの姿は、さらに立派で美しいものです)と美しさのたとえとして真珠がうたわれている。また、東大寺の大仏の開眼に関する式典で使った真珠は4158個で、今も、奈良の正倉院に保管されている。
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日本が誇る世界最高峰の
あこや真珠
そんな歴史ある日本の真珠の中でも、最も高貴とされるのがあこや真珠だ。あこや真珠は養殖がない頃から天然真珠の王様として知られていた。日本のあこや真珠は、四季による水温の寒暖差の影響で、各国に存在する真珠の中でも、最も透明感があり、キメや光沢、丸みや厚みが優れており、世界有数の品質を誇っている。
真珠の産地として知られる三重県、愛媛県、熊本県、長崎県にはリアス式海岸がある。リアス式海岸の入り江は波が低く、風も穏やかで、水深があるため、良いプランクトンの発生につながる。また、川によって運ばれる山のミネラルも重要。豊かな海と豊かな山の両方によって、あこや貝は育ちやすい。
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真珠養殖を支える
ていねいな手仕事
あこや貝は元来とてもデリケートな貝で、環境の変化に弱く、養殖は難しいとされていた。しかしながら、19世紀の終わりに御木本幸吉が、あこや貝にガラスなどの核を入れて養殖を試みて成功したのを皮切りに、日本の真珠養殖が花開くこととなった。
1907年には、あこや貝による真円の真珠を生産する特許が申請され、その後もさまざまな技術によってあこや真珠の生産量が高まった。
あこや貝の養殖では、1年から2年ほどかけて母貝を育てる。春は、真珠のもととなる核を埋め込む作業に精を出し、夏はフジツボやカラス貝といったさまざまな付着物を取り除く。秋から冬にかけてはいよいよ真珠の採り出しだ。四季折々の作業のほとんどが手作業で行われる。その上、高品質な宝石として流通できるのは全体の約3割ほど。それに加え、近年は、原因不明のウィルスの発生などにより、あこや貝の壊死が続き、生産者を悩ませている。
こうしたさまざまな至難を経て、養殖場で育てられた真珠は、加工メーカーへと運ばれる。養殖、加工、選別の各プロセスにおいて匠が目を光らせる。分業ながら、各過程において一切の妥協がないのも、日本の真珠産業を世界トップクラスに君臨させている大きな所以だ。
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真珠にかける日本人の想い
真珠の産地である愛媛県・宇和島では、全て手作業であこや貝への核入れを行う。生産者自ら「大手術」と呼ぶこの仕事を行うときは、真珠養殖に携わって50年というベテランでも、最も緊張が走るという。真珠のよしあしを決めるのは、海・母貝・技術の3つの細かい組み合わせで、そこを見極めるのが熟練の技。2019年には日本全国で大量のあこや貝の壊死が起こり、宇和島でも例外ではなく、育てていたあこや貝が全滅。それでも「ほぼ全てが見通せて、計算し尽くせて、つくれる真珠があったら、ここまでできていたかというと疑問ですね」と匠は言う。
同じく、真珠の産地として知られる伊勢志摩では、真珠養殖のために死んでいったあこや貝を供養するための「真珠祭り」が毎年10月22日に開かれる。真珠祭りは、真珠のふるさとである英虞湾・賢島で行われ、真珠の誕生とともに一生を終えるあこや貝の供養祭と真珠養殖の振興を祈願するイベントだ。円山公園の供養塔で法要を執り行ったあと、賢島港に真珠母貝を放生する。
白い磯着に身を包み、海に潜って貝や海藻類を採取する海女は、かつて養殖真珠の収穫に欠かせない存在だった。
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WSPの根幹「目利き」
近年、温暖化や原因不明のウイルスの発生により、あこや貝が壊死する現象が急増。高齢化による後継者不足も相まって、品質のよい真珠が年々手に入りにくくなりつつある。そんな状況下においても、WSPが変わらずお客さまに価格以上の高品質な真珠を提供し続けられている理由は、長年にわたる「真珠専門のプロフェッショナル」としての実績に他ならない。
WSPの強みは、徹底的に「真珠本来の美しさ」にこだわってきたことだ。そして、真っ当な商いを貫いてきたこと。真珠の生産が激減している苦しい現代においても、同じく尊い使命感をもつ養殖業者や加工業者(メーカー)と長年にわたり信頼関係を構築してきたからこそ、日本全国からさまざまな品質の真珠を安定的に確保できている。こうして集められた真珠は、社内で厳正にランク分けし、「よいものを良心的な価格で」をモットーに販売。卸売りは、小売に比べて大量買いができるため、相場ではかなりの高額となる高品質な真珠でも、流通コストを抑えることが可能なのだ。また、その真珠の特性にあったデザインを自社で行い、スタンダードなものから、個性が光るものまで、ラインナップも幅広く揃えている。さらに、余分な広告費をかけず、生産者や海の環境保護、そして何よりお客さまにそのぶんを還元することで、よい循環を生み出しているのだ。
WSPは、日本の「真珠のプロフェッショナル」であることを誇りとし、ハレの日も、ケの日も、真珠をつけることで身につけた人の心が豊かになることを願っている。
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WSPのSDGs活動
近年、WSPは「ともにいい感じをずっと」の理念のもと、「きれいごとを本気でする会社」をテーマに運営、WSP SDGs
STYLEに取り組んでいる。その根幹には、売り手よし、買い手よし。世間よし、そして将来世代よし、という「四方よし」の想いがある。
持続的な海洋環境保護を目的に、河川や海のゴミを減らす活動との関わりを模索。健全で生産的な海を実現できるように、海と沿岸の生態系を回復させるため、豊かな自然を守る「日本自然保護協会」、海での体験や環境保護を推進する「海と日本PROJECT」、子どもの福祉を支援する「認定NPO法人フローレンス」、その他団体に売上の一部を寄付している。
また、真珠貝の貝殻から作られる、コンキオリンという美容成分を化粧品に使うことにより、廃棄される真珠貝の有効利用を実施。傷や割れが生じ、ジュエリーとして使えない真珠の真珠層(真珠表面)も、化粧品成分やサプリメントなどの健康食品の原料として活用。そのほか、化粧品容器などアップサイクル素材や、リサイクル可能な素材の使用率を高めている。
古代から愛されてきた海の宝石・真珠を通して、WSPはこれからも海との共存共栄を目指していく。ともにいい感じをずっと-。